岡山の我が実家は、シシ神の森の中にある。

生き物たちは太古のままに生きている。

戻って家族での食卓。

小さな虫が飛んで来た。

オレが手で払った。

母君は血相を変えて言った。

母君「なにしよん!」

オレ「え?いや、虫が来たから…」

虫も生き物だから、ダメだったか。
でもご飯中じゃし。

母君「パチンて手で殺さんといけんが!」

え?今なんて…

母君「殺さんとまた来るが!」

オレ「いや、え?あの、え?すいません…」

て、おい!

蚊じゃねえから!

けっこうな羽虫じゃったから!



すると父上は、滔々と語りはじめた。


「おまえには実は2つ下の弟がおってな…」

いや、知ってるし。

虫の話と関係ねえし。

それ話長くなる?

長くて岡山弁だったので、要約するとこうだ。



オレの弟はニートで、家族とは口をきかない。

難しいお年頃だ。

そんなある日、数年ぶりに弟がオヤジに話しかけたそうだ。




「ハチがおる…」




一堂ポカーンだ。

数年ぶりのセリフがそれだ。無理もない。


オヤジは正気を取り戻して、弟の部屋へ行く。

そこで目にした光景。

それは。



なんと黄色のスズメバチが5~6匹ところ狭しと飛び回っているではないか!




「ハチって、おいコレ!」


もはや言葉にできない。

そしてオヤジはバカなので、ホウキで退治しはじめやがったそうだ。

生粋の、バカやろうだ。

ハチは報復する生き物なんだぞ!

しかもスズメバチなんだぞ!!


ただ、オヤジは、数年ぶりに弟がしゃべってくれた嬉しさのあまり、

アドレナリン爆発だったようだ。

親の愛はスズメバチをすべて撃退し、

弟はその夜、静かに眠ることができたそうだ。


オヤジはと言えば、スズメバチなんかよりも弟の「ハチがおる…」の言葉に、

一人仏壇に手を合わせ泣いたそうだ。

バカやろう…。



翌日、ちゃんと業者呼んで、屋根裏のデカイ巣を発見・駆除してもらったようだが、


山の恐ろしさと親の愛を知った、

夏の「怪談」だった。

ちなみに弟は、

この夏から少しずつ働きはじめたようで、

年のせいか涙もろくなった親はさらに目から汗が。

泣くなよ、バカやろう…(涙)。





すると母君も怪談を。


「こないだ、家にひとりでおったらなー、なんか泣き声が聞こえてきてな。」

人の泣き声?

いやいや。

「怖かったんじゃけど、聞こえるほうの襖をサッと開けたらな。」

いや、やめて!



「ノラ猫が2匹。」

は?

「見つけたら、むこうもびっくりしたんじゃろうなー、家中猫が走り回って大変じゃった。」


……。




岡山でも、トンボが飛びはじめた。

秋は少しずつ近づいている。

幸せのトンボよ。

おまえはどこにいるのだろう。


そして岡山のトンボは、またことさらにでかく、

太古のままに生きている。




早く戻ろう!
花の都大東京に!




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「Hello, NAUSICAA」岡山編。
完結!
また会う日まで。